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2005年07月15日
『帽子収集狂事件』J.D.カー
ミステリーが好きで、その歴史をさかのぼってみようと思ったことのある人ならジョン・ディクスン・カーは間違いなくどっかでぶつかったことのある名前じゃないかしら。といっても私の周りにはそんな人いたためしがないが。もったいない。
そんなわけなので、以降はややマニアックな内容になっております。
といいつつこのわたしもカーに関しては短編を一つ読んだきりだったんだけど、初めて長編を読んでこの作家の持ち味は長編でこそ活かされるもんだったんだなあとしみじみ感じているところです。
カー自身はアメリカ人なんだけど、舞台はイギリスのロンドン。しかも観光地として超有名なロンドン塔。解説にもあるとおり、ミステリ作家なら誰でも一度はネタにしてストーリーを考えたことがあるはずの場所だ。この話は渡英後あまり間をおかずに書かれたものらしいけど、そのおかげかロンドンという街の持つ独特の雰囲気が新鮮な筆致で描かれてるなあと思った。
ストーリーに関しては、これから読むかもしれない人の楽しみを奪ってはあまりにも無粋というものなので黙っておくとして、わたしが何よりも気に入ってしまったのはその言葉のセンス。
カーは正統派ミステリ作家らしく相当博識な人であったらしい。そんな人がそれをさらりと包み隠して、ユーモアだの風刺だのをかまそうものなら、わたしにしてみればまさにヨダレがとまりませんというやつですよ。わたしは古典的ミステリを読んでいてこんなに吹き出したことは今だかつてない。主人公のフェル博士とハドリー警部の会話のやりとりがたまりません。博士がハドリーのフリをして自白させようとするトコとか、ハドリーがソクラテス式問答に不平を並べ立てるトコとか。
そもそも作品のテーマ自体、エドガー・アラン・ポーの未発表原稿の盗難事件とか、不思議の国のアリスの「帽子狂」Mad Hatterから来てたりとか、いかにもミステリファンの好みそうな象徴がコレでもかと盛り込まれたサービス精神のカタマリのようなものなんです。
今の日本に住む人たちが読んでももちろん十分面白いと思うけど、さらに作品全体の空気感をイギリスに昔住んでいたことで感じることが出来たんじならこいつは実にラッキーだったなぁ。と、多分わたし以外誰も共感してくれなさそうだが思わずアツく語ってしまった。
ジョン・ディクスン・カー 『帽子収集狂事件』 集英社 1999年
投稿者 yosim : 2005年07月15日 23:24
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